デザイン監修とは、建設プロジェクトや商業施設などの環境・空間デザインなどで採用される、一級建築士やインテリアデザイナーなどへの発注方法の1つです。
この記事では、デザイン監修の意味・概要、設計業務との違い、業務内容や契約、事業主がデザイン監修を採用するメリットなど、デザイン監修業務における成果物・費用などを交えて解説いたします。
デザイン監修とは?設計業務との違い
デザイン監修とは、建築やインテリアデザインの業務の一部を発注する発注方法の1つです。分業が必要となる大型プロジェクトや、ホテルや商業施設などのデザイン性が求められるグレードのプロジェクトで採用されています。
国土交通省によれば、建築設計業務は、プランニング、デザイン、法チェック、構造設計、設備設計、積算、工事監理の7項目に分類されます。デザイン監修は、設計業務の7項目のなかのデザインのみを行う業務です。
設計者は多岐にわたる業務をカバーする必要があるため、デザインだけに大きな力を注ぐことができないことがよくあります。大きなプロジェクトでは、組織事務所やゼネコン設計部はプロジェクト全体の設計を総括し、デザインを別の建築家やデザイナーに依頼する方式が採用されています。
分業が一般化しているアメリカでは、デザイン監修業務が独立した職能として確立されており、デザイン監修のみを行う設計者のことを「デザイン・アーキテクト」と呼んでいます。
デザイン監修の業務内容・契約とは
デザイン監修の業務は、1.元請け設計業務の基本設計→2.デザインディベロップメント→3.コスト監修→4.現場監修という基本的な流れに沿って進みます。それぞれのフェーズにおいて、以下のような業務を行い、元請け設計者が行う建築設計作業や建築設計図面に対し、デザイン監修者(デザイン監修業務を担当する建築家やデザイナーのこと)がデザイン的な肉付けを行います。
1.基本設計及び基本ボリュームデザイン
基本設計段階においては、主に以下の3つの業務を行います。
デザインコンセプトの策定
プロジェクトの初期段階においてデザインコンセプトを作成し、コンセプトシートにまとめます。デザインに取り掛かる前に、クライアントや設計チーム内でデザインのトーン&マナーについて共通の認識をつくりあげ、それらを資料化し共有します。そうすることで設計から竣工まで同じゴールを見ながらプロジェクトをすすめることが可能になります
基本ゾーニングプラン及びボリュームデザインスタディー
元請け設計者が進行する基本設計作業にそって、3Dモデルや模型による立体系な意匠デザインの検討を行います。法律や敷地条件など建物を取り巻く諸条件から導き出される基本的な形の骨格を決めていく作業により、「引き算のデザイン」を行っていきます
基本デザイン検討及びカラースキーム検討
ボリュームスタディーで作成した3Dモデルに、素材や建具などを付け加え、デザインを肉付けする「足し算にデザイン」を行います。色や素材は実際に使用するマテリアルの画像を取り込んで貼り付け、リアルなデザインの検証を行います。そして作成した3Dモデルをウォークスルー動画などでクライントにプレゼンテーションを行い、基本デザインを確定します。
2.詳細デザイン検討及びデザインディベロップメント図の作成
基本デザインが確定した後に、詳細なデザイン検討作業を行います。詳細デザイン作業は3Dモデルによる「デザインの深度化」と、それらをカラーリングされた詳細図に落とし込む「デザインディベロップメント図」の作成を行います。
デザインの深度化
策定した基本デザインに沿って詳細な意匠デザインを検討し図面可していくフェーズです。基本デザインで作成した3Dモデルに詳細なタイルの割付やマテリアルの張り込みを行い、よりリアルな建築モデルをCGで再現していきます。
またインテリア設計においては、造作什器の詳細なモデルを空間モデルのなかに配置したり、配灯計画に基づいて照明をモデル内に配置し内部空間の検証を行います。
デザインディベロップメント図の作成
3Dモデルの詳細検討を行いながら、それらをリアルタイムに図面化していきます。平面図、立面図、天井伏図、展開図、部分詳細図などに、実際に使用する色や素材を表現したデザインディベロップメント図(DD図)を作成し、建物の詳細デザインを確定していきます。
完成した3DモデルとDD図を用いて、クライアントに最終プレゼンテーションを行います。プレゼンテーションで了承が得られたDD図は元請け設計者に渡り、実施設計図の内容に反映されていきます。
3.デザイン面におけるコスト監修
デザイン監修業務においては、必要に応じて施工者が作成した見積を以下の視点からチェックする、コスト監修業務を行います。コスト監修業務では施工者の提示する見積もり内容のチェックとVE/CD提案を行います。
見積もり内容のチェック
施工者から提示された見積もりにおいて、デザイン上必要な項目が抜けていたり、数量の広い間違いをしていないかをチェックしリスト化していきます。また必要に応じで元請け設計者や施工者に質疑応答を行い、見積内容の正確な把握を行います。
デザイン面のVE/CD提案
見積り金額がターゲットコストをオーバーしている場合に、VE/CD提案を行います。デザイン提案の価値を損なわないように、デザインの仕様や素材などを見直し、それらをVE/CD項目としてリスト化します。また必要に応じてモデルや図面にVE/CD内容を反映させ、クライアント、元請け設計者及び施工者に説明いたします。
見積内容のチェックとVE/CD提案は報告書としてクライアントに提出しますが、必要に応じて元請け設計者、施工者と打ち合わせを行い、工事金額がターゲットコストに収まるようにデザイン面においてサポートします。
4.現場デザイン監修
デザイン監修業務では、デザイン面における施工図のチェック、現場で発生するデザイン変更への対応、モックアップや照明の現場確認を行い、DD図通りに建物が出来上がるように元請け設計者の現場監理をサポートします。
施工図チェック
施工者から作成する施工図や製作図の内容が、DD図に沿った内容となっているかチェックします。またDD図や実施設計図に表現されないタイルの割付や塗装の塗りわけなどについて施工図をチェックし、必要に応じてスケッチ図等を作成します。
デザイン変更への対応
施工上の理由やクライアント要望により、DD図や実施設計図にある仕様を変更する必要が出てくるケースがあります。そのような際にデザイン変更案を作成し、施工者が算出する変更による概算金額とともにクライアントに提示します。クライアントの了承が得られた後施工者にデザイン変更の指示や確認を行い、変更内容が現場施工に反映されるようにサポートします。
モックアップや照明の現場確認
外装材や造作什器、サイン等のモックアップ(試作)を行い、現場にてクライントと確認します。また照明についても一部先行して施工を行い、イメージした照明デザイン通りとなっているかを現場にて確認します。モックアップや照明の確認結果をうけ、デザインの修正が必要な場合は、クライアント、元請け設計者、施工者と協議したうえでデザイン変更の作業を行います。
デザイン監修の費用の相場、見積方法とは
デザイン監修にかかる費用の算出方法は、クライアントや建物用途、規模によって様々ですが、大きくわけて以下の2つの方法があります。
A.元請け設計料からデザイン料として算出するケース
上述した通りデザイン業務は設計業務の一部であるので、建築意匠設計者がクライントと契約する設計料をベースに算出し提示します。費用の相場としては、元請け設計料の10〜15%程度が一般的で、設計費が工事金額の7〜8%だったと仮定した場合、デザイン料は工事金額の0.7〜1.05%程度と見ることができます。
ANALOGがこれまでサポートしてきたプロジェクトでは、デザイン監修を導入する際の報酬は、Aの形式で算出されるケースも多く、一般的にもAの事例を見聞きします。
B.建築の付加価値投資として算出するケース
建築プロジェクトにおいて工事費を含むプロジェクト予算に、付加価値費用として計上するために算出することもあります。この場合は、そのプロジェクトにおいて、どの費用区分からデザイン監修費が捻出されるかによって異なります。
マンションの外観デザイン等であれば、販管費の予算ボリュームで決まり、本社ビル等であれば建築工事予算において純粋にデザイン費(外部委託予算)として組み込まれることになります。この場合の費用感については一概に決まるものではありませんが、多くても建築プロジェクト予算の1〜2%、多くて3%といったところだと思われます。
デザイン監修を活用するメリット
デザイン監修を取り入れることで、建築や空間に付加価値を生み出すことができます。そしてその付加価値によって数多くのメリットが生み出されますが、その代表的なものを以下にあげてみたいと思います。
1.デザイン専業の会社に依頼することで、費用対効果の高い建築物をつくりだす
デザイン監修のコストはプロジェクト全体予算の数パーセントです。その数パーセントで宣伝広告、SDG’Sを含む社会的な意義付けなどの施策を図ることができると考えれば、そのレバレッジ効果はとても高いといえます。
2.元請け設計者が標準設計業務に集中でき、技術面における質を保つことが可能
デザイン業務は、設計の3D化に対応していない元請け設計者にとってはそれなりの負担となります。デザイン業務を3D化に対応したデザイン設計事務所に依頼することで、元請け設計者の負担を軽減し、プロジェクトの円滑な進行と技術面におけるクオリティーを担保することができます
日本ではこれまであまりなじみのなかったデザイン監修業務ですが、分譲マンションを手掛ける大手デベロッパーと中心に採用するケースが増えてきています。今後はオフィスビルや商業施設、そして物流や倉庫等の建物でも採用されるケースが増えてくると予想されます。
一般的にデザインは装飾という意味でとらえられがちですが、大手企業などでは顧客やユーザーとのインターフェースとしてとらえ、商品やサービスに新たな価値を付与し、売上や企業イメージの向上をはかるツールとして採用しています。
そして価値の高いデザインを生み出すには、デザインに対するノウハウやプレゼンテーション力をもったデザイン専業事務所が必要になります。元請け設計者には、プロジェクト全体の設計統括として技術力を担保してもらい、専門的な知識や行動力をもったデザイン専業事務所に任せることで、建築プロジェクトの競争力を高めていくことができるようになります。
デザイン監修を活用し、技術力とデザインを担保しましょう
デザイン監修は、専門の設計事務所に依頼することで、費用対効果が高く、技術面も担保された建築や空間を作り上げることができます。
クライアントがデザイン監修を活用するためのポイントは以下の通りです。
- デザイン監修は、設計業務の7項目のなかのデザインのみを行う業務
- デザイン監修は、基本設計→デザインディベロップメント→コスト監修→現場監修という流れで行われる
- デザイン監修の費用は、元請け設計料の10〜15%、工事費の0.7〜1%程度が一般的
- デザイン監修は、費用帯効果の高い建築物をつくりだす
- デザイン監修は、技術面における質を保つことにも寄与
建築・インテリアのプロが在籍するANALOGでは、お客さまの事業の成功につながる店舗・施設の実現をサポートいたします。デザイン監修の導入方法やプロジェクトの体制の構築からも相談可能です。店舗や施設を運営する事業主の方やデザイン監修者をお探しの大手設計事務所の方もお気軽にご相談ください。
デザイン監修に関する事例・リンク
ANALOGについて
アナログでは、プロジェクトの規模や特性にあわせ、お客さまにとって最適な形で参画することができます。事業主の立場から直接発注いただき、課題解決に貢献することもできますし、既にご発注済の大手ゼネコンや設計事務所からインテリアデザインの部分のみ担当するような、分離発注・協業の形でも参画することもできます。
サービスと費用
デザイン監修やその前段階で行うデザイン企画の立案や概算算出、あるいは通常の建築設計監理業務など、さまざまなケースでのサポート方法や費用をご覧いただけます。
導入の流れ
デザイン事務所への相談方法やお問合せから業務メニューの決定までのプロセスを紹介しているページです。デザイン設計のプロに相談する場合に、その方法や費用が発生するタイミングなどを紹介しています。