施設概要
青森空港は青森市中心部から南方に約10キロメートル、標高198メートルの山腹に位置する、本州最北端の空港です。年間の乗降客数は約120万人(2019年)で、東北地方では仙台、秋田に次ぐ規模の空港です。
現在の空港ターミナルは1987年に国内専用ターミナルとしてオープンし、1992年には国際線対応施設を含む増床工事を行い、床面積約11,000㎡のターミナルビルとして約30年間運営されてきました。そしてターミナルのリニューアル及び増床計画が立ち上がり、2018年5月に着工し、約3500㎡の増床を伴う工事を経て2019年7月に完成しました。新築時と本改修計画の元請け設計者である日本空港コンサルタンツ様からの依頼をうけ、弊社がターミナル共用部、商環境エリア、フードコート、一部オフィスエリアの内装及び施設サインのデザイナーとして当プロジェクトに参画致しました。
デザインコンセプト
地域性と機能性をベストミックスさせたデザイン
県名の「青森」の由来は、海上から見える「青い森」が港に入る船の目印になっていたことと言われています。青森空港は空の港であり、飛行機で青森にやってくる人々の目印でもあります。そのようなランドマークにふさわしいコンセプトは「森」であると定義し、「森のターミナル」というデザインコンセプトを提案しました。ターミナル全体において、森や森に育まれた自然の恵み、文化がターミナル機能と共存する空間づくりを目指すこととしました。
また空港ターミナルは意匠性と機能性、地域性と全域性など相反する要素をバランス良く取り込んでデザインする必要があります。意匠性や全域性に”Organic(有機性)”、機能性や全域性に”Minimal(質素)”というキーワードを当てはめ、それぞれが一番良いバランスでミックスされたターミナル空間をデザインすることを目標としました。
空間のデザイン
地域性のデザイン
空港には搭乗待合室や到着旅客出口など、旅の高揚感や余韻が交差する場所がいくつかあります。本プロジェクトにおいては、そうした部位に青森にある森林や観光資源を空間に溶け込ませた有機的なデザインを採用しました。青森の自然や文化を建築空間に内在化することにより。物語性をもった魅力的なターミナルを生み出すことができると考えました。
機能性・全域性のデザイン
コンコースや出発・到着ロビーなど、旅客がせわしなく移動する空間には、質素で機能美を突き詰めたデザインを採用しました。空間の機能性とメンテナンス性に配慮した質素なデザインでありながらも、シャープでエッジの効いたディティールとすることで、洗練されたインターナショナルな雰囲気を醸し出すようにしています。
空港の木質化
青森県産のヒバを活用した内装空間
到着ロビーの森を象った木ルーバーやフードコートのエントランス壁面に施したこぎん刺しのレリーフなどに青森の県木でもあるヒバを多用することで、デザインコンセプトである“地域性”を作り出す一翼を担っています。また汚れやキズに強い木調フィルムや木調メラミンを空間デザインのアクセントとして用い、ターミナル全体で木の温かみが感じられるデザインとしています。
フードコートのデザイン
共用部と調和したやすらぎ空間を創出
本プロジェクトにおいてはターミナル共用空間と共に120席のフードコートもデザインしました。ターミナルコンセプトと調和した「森のやすらぎ空間―フォレストダイニング」をコンセプトとしてかかげました。森のモチーフを散りばめ、出発前や到着後に安らいで食事のできる空間づくりをこころがけました。
サインのデザイン
従来の空港サインシステムを活かした新たな提案
改修前のサインは国内空港の標準的なサインデザインで整備されており、青森空港としての特色がないものでした。また後付けされたサインにデザインの統一性がなく、大きな広告がサイン機能を損なっているような状況でした。
そこで我々デザインチームが提案したのが、従来の空港サインシステムの機能を活かしつつ、ターミナルデザインと調和した“青森スタイル”のサインです。カラー、フォント、ユニバーサルデザインの各視点から徹底的にサインデザインを煮詰め、空間に溶け込みながらも旅客をスムーズに誘導できるサインを計画しました。また広告やFIS、ショップサインもターミナルデザインと並行してデザインすることで、誘目性を保ちつつ空間と調和したサインシステムとなっています。
BIMデザイン
3Dモデルによるリアルタイムなシュミレーションを実現
プロジェクト開始時よりBIM(Building Information Modeling)を採用し、3Dモデルによる設計を行いました。3Dモデルから作成したウォークスルー動画やレンダリングパースを用いて計画内容のプレゼンテーションを行い、クライアントとのスピーディーな合意形成及び問題点の把握を行いました。デザインしている空港内を忠実に3Dモデル化し、施主はもちろんのこと協働デザイナーや施工者などとも3Dモデルを共有し、常に完成形がイメージできる状態で設計及び現場を進めました。
また基本設計図、実施設計図も3Dモデルから2D図面を抽出して作成しています。完成してから発生するサイン設置検討などの追加工事対応にもBIMを活用し、施設運用にも継続して活用しています。