プロローグ
工場をオフィスにリノベーション
富山県高岡市にウッディパーツという2つのプレカット工場を持つ会社があります。 その工場のうちの一つである第2工場の2階は、以前工場として使われていましたが、工場機能を1階に降ろしたことにより、一部を展示スペースや事務所として使用する他はほとんど使用されていない状態になっていました。
そこで空いた2階スペースを有効活用するため、この工場自体が会社の本社機能とな るようにリノベーションする案が浮上。そして2016年11月に、席数40~50席のオフィスや会議室を作り、また1階の一部をエントランスとして改修するプロジェクトが始動しました。
デザインコンセプト
オフィスを木のミュージアムへ
森林大国でありながら、これまで都市や空間の木質化が遅れていた日本。ここにきて木によるデザインが生まれるようになってきました。今回のプロジェクトは、プレカット会社というまさに「木」を扱う会社のオフィスを、鉄骨の工場内に生み出そうというものでした。
それであれば、オフィス自体を徹底的に木や木質構造にこだわった木のミュージアムをつくろうということでプロジェクトがスタートしました。構造材から仕上げ材まで、ありとあらゆるところに木や木質系素材を使用し、徹底した木質化を図っています。
スケルトン・インフィルデザイン
既存工場内の温度は外部と変わらず、また1階は吹きさらしの工場のため、夏は暑く冬はとても寒い執務環境となることが予想されました。そこで既存の工場空間(スケルトン)にオフィス機能の入る木の箱(インフィル)を挿入するデザインとしました。木箱のデザインは会社のアイデンティティーとして機能するのみならず視覚的な暖かさや、癒やしの効果をもたらします。
木箱の床、壁、天井内には高性能グラスウールによる断熱を施し、空調効率を最大限維持する計画としています。
配置計画
大きな空間を分節しストーリーをつくる
45m✕35mの巨大な工場スペースをあえて分節するようにオフィスを配置しました。エントランススペース、オフィス、展示スペースとなるように工場を分節することでストーリーを生み出し、働く人々や訪れるお客様がいつ来ても新鮮な気持ちになれる空間を作り出しています。
プランニング
大きな一部屋をデザインする
このオフィスに入居するのは、総務、営業、CADといままで別の場所で作業していた社員達です。また、グループ会社の営業席も必要要件としてありました。これまでは部署ごとに違う部屋をあてがったり、パーティションで仕切っていました。そこで今回はあえて巨大な一部屋を作ることで、会社の風通しを良くし、社員やグループ 会社間でのコミュニュケーションを促すオフィスを目指すことになりました。
執務空間を40~50席のフリーアドレス席がレイアウトできる大きな広間として計画し、構造には17.5mのスパンを1本の柱で支える木製張弦トラスを採用。わずか7本の柱で、385m²もの広々としたオフィスをつくり出しました。また工場の容積を活かし、執務室の天井高さを4.3mとしました。そのことにより、 快適で創造的な執務空間を実現しています。
エントランスデザイン
搬送機器シャフトをエントランスに再生
もとはプレカット資材を搬出入するための搬送機器シャフトを、エントランスと階段室にリノベーションしました。地元市役所と協議のうえ、搬送機器シャフト用開口面積を変更しないことを前提に、確認申請を不要とすることで合意していました。
そのため階段を搬送機器シャフト開口に収める必要が生じ、変則的な折れ曲がり階段が生まれました。その結果として、高い吹き抜け空間を回遊しながら昇っていく、 躍動感のある階段が誕生しています。
ファサードデザイン
工場と対比させたシンプルなデザイン
工場が鉄骨トラスという繊細な構造であったため、それと対比してシンプルな”木の箱” となるようにファサードをデザインしました。そしてそのシンプルな木の箱に、大きさの違う窓をランダムに配置することで、毎日この建築を目にする従業員に飽きのこないデザ インとなっています。ファサードの素材には、この会社の取扱い材料であるシナ合板を採用し、森林資源を扱う会社のアイデンティティーをアピールしています。
構造デザイン
一般流通材による張弦構造を実現
17.5mのスパンを1本の柱で支える木造張弦トラス構造を採用することで、天井高4mを超えるモノスペースを実現しました。角度が異なる部材や木と鋼材との接合部には、 STROOG社製のリング型トラス接合コネクタを採用し、特注の鋳物や鋼材を用いることなく、シンプルで施工性に優れた木製張弦トラス構造を実現しています。また構造材には全て一般流通材である集成材や角柱を使用することで工期の短縮ならびにコスト削減を図りました。当然のことながら、材の調達及びプレカットはウッディパーツで行われ、働く空間が自分たちが手がける製品のサンプルとなっています。
照明計画
さりげないライン照明
オフィスエリアの空間照度を確保するライン照明は、全て凹型の木製照明カバーに埋め込まれています。下面開放型の照明器具を露出させず配置することで、照明の存在を感じさせることなく、最大1000lxというオフィスとして十分な照度を確保しています。また凹型の照明カバーは大梁に使用する集成材と同色のホワイトウッド材を厳選し、梁と一体となったカバーに見えるようになっています。
避難安全検証
避難安全検証により排煙区画を免除
工場からオフィスへの転用の場合、2階全体が事務所扱いになり500m²以内に防煙区画壁を設置する義務が発生します。しかし、今回の工場のように巨大な空間に防煙区画壁を設けることは現実的ではありません。
そのため避難安全検証を行い、防煙区画がなくても安全に避難できることを検証し、防煙区画を設置しなくてよい計画としました。また、その結果として既存排煙窓も不要との計算結果が出たため、2年に一回行う義務のある排煙窓の定期点検及びオペレーターの交換等が不要となり、ランニングコストを削減することに成功しました。
BIM(Building Information Modeling)
BIMによるリノベーション設計
プロジェクト開始時よりBIM(Building Information Modeling)を採用し、3Dモデルによる設計を行いました。使用したソフトはGraphisoft社のArchicad。設計の初期段階からウォークスルー動画で計画内容のプレゼンテーションを行い、クライアントとのスピーディーな合意形成及び問題点の把握を行うことができました。
また実施設計においてもBIMをフル活用し、3週間という短期間に60枚の図面を作成しています。施工段階においては、iPadなどの端末で見ることができるウォークスルーデータを提供し、現場における納まりを3Dで確認し後戻りの少ない施工を実現しました。
建築概要
所 在 地:富山県高岡市能町750
工場面積:1階 1233.24m²、2階 1340.81m²
改修面積:1階 44.52m²、2階 526.12m²
構 造:木 造
設計期間:約3ヶ月間
工 期:約3ヶ月間
施 主:株式会社ウッディパーツ
設計監理:ANALOG.Inc(旧池田建築設計)
構造設計:STROOG一級建築士事務所
照明協力:MODULEX
施 工:光陽興産株式会社
避難安全検証:株式会社イズミシステム設計
F F E:株式会社ウチダシステムズ、南陽オモビト株式会社
展示スペース:乃村工藝社(設計・施工)
主な仕上げ材料
外 壁:シナ合板デザイン貼り、AEP塗装
床 :タイルカーペット敷
内 壁:シナ合板貼りのうえウレタンクリア塗装 木毛セメント板のうえAEP塗装
天 井:木毛セメント板のうえAEP塗装、PBのうえAEP塗装
写 真:河野政人(ナカサ&パートナーズ)
掲 載 誌:新建築2020年4月号掲載、商店建築2018年4月号掲載
受 賞 歴:第21回木材活用コンクール 木材活用賞受賞