
神々の島のマイクロディスティラリー
島根半島の沖合約60kmに浮かぶ隠岐諸島・中ノ島の海士町。カルデラ地形や独自の生態系を有し、地域全体が「ユネスコ世界ジオパーク」に認定された人口約2,200人の離島です。名水百選に選ばれた「天川の水」をはじめとする豊かな資源に恵まれ、「ないものはない」というスローガンのもと、島を挙げて新たな挑戦を歓迎する風土が根付いています。
本プロジェクトは、静岡県三島市の第1号蒸留所に次ぐAMA Whiskey&Co.の第2号蒸留所「Distillery Drift Mark」の建設です。ジャパニーズウイスキーとしては希少なバーボンスタイルのウイスキー造りに挑む拠点として、厳しい自然環境と最高のテロワールを持つこの島が選ばれました。島内の空き家を熟成庫として活用し、島全体でウイスキーを育てる「ウイスキーツーリズム」の構想も、この地を選んだ重要な理由です。

既存の景観に寄り添うスケルトン改修
昭和59年に建てられたフェリーターミナル近くの空き家をスケルトン改修し、ウイスキー蒸留所、カフェ&バー、ショップ、ラウンジを内包する複合施設へと再生しました。
海士町長からの「島の景観を守ってほしい」という要請を受け、隠岐の民家の風情である寄棟の瓦屋根を保存・継承しつつ、新たな機能を与えています。

町の回遊性を高めるゾーニングとファサード
建物の半分を2層吹き抜けの蒸留エリア、残りの半分を2階建てのバー・ショップ・ラウンジエリアとして構成。内部には東側の新道と西側の旧道をつなぐ連絡通路を通し、町を回遊する動線を敷地内に引き込んでいます。
カフェ&バーは新道側に大型のガラス建具で大きく開き、近隣住民や来島者の交流を誘発する場に。アーノルドホルスタイン社(ドイツ)製の特注蒸留器は専用の大型フィックス窓から外部に見せ、既存住宅の穏やかな外観にシンボリックなインパクトを与えています。

離島ならではの制約を「島らしさ」へ
大空間を実現するために既存の耐震要素であった壁や床を撤去する必要があり、内部解体後に残存する構造体を入念に調査し、構造を再設計したうえで補強を行いました。冬場にフェリーが欠航しやすい条件のもと、大型蒸留機器の搬入は気象予測を綿密にモニタリングして工期を遵守しています。
また、島内に金物や什器を加工できる工場がほぼないことから、手摺のフラットバーや什器のディテールを島内でも加工しやすい木材に置き換えました。この制約を逆手に取った選択が、島の気候風土に馴染む温かみのある空間を生み出しています。




















Data
| 所在地 | 島根県隠岐郡海士町福井 |
|---|---|
| 用途 | 蒸留所・カフェ&バー・ショップ・ラウンジ |
| 構造 | 木造2階建(リノベーション) |
| 規模 | 延床面積 195.98 ㎡ |
| 竣工 | 2026年4月(グランドオープン 2026年6月13日) |
| クライアント | AMA Whiskey&Co.株式会社 |
| 設計 | ANALOG Inc. |
| 施工 | 株式会社吉崎工務店(建築) 三丸機械工業(蒸留設備) |
| 構造設計 | 坂田涼太郎構造設計事務所 |
| 設備設計 | 山崎設備設計 |
| 照明計画 | Modulex |
| 撮影 | 梶原敏英 |